Dialogue1

vol.7 ジョン・デイビス(The cheese shop 店主)×藤田貴大
おきなわいちば  presents対談シリーズ

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おきなわいちば presents対談シリーズ
「沖縄での営みをめぐる」
おきなわいちば presents
対談シリーズ


「沖縄での営みをめぐる」

おきなわいちば presents対談シリーズ
「沖縄での営みをめぐる」vol.7

ジョン・デイビス(The cheese shop 店主)×藤田貴大

ジョン 藤田さんどこの人ですか?

藤田  住んでいるのは東京です。ジョンさんは以前、北海道に住んでいたんですよね?

ジョン 北海道です。

藤田  僕は出身が北海道なんです。伊達市という町。

ジョン ああ、知ってる! 私がいたのは札幌です。だけど雪はもう嫌。だから、暖かいところに行こうと思ってね。最初はスペインに行こうとか言っていたけど、スペインだったら言葉の問題とか年金をどうするかとか全然現実的じゃなかったんだよね。沖縄は暖かいし、日本語が通じるし、雪もないからね。

藤田  札幌から沖縄に移ったのは、いつなんですか?

ジョン 16年前ぐらい。ワインを1ケースと大事なものを車に入れて、苫小牧までドライブして、そこから船に乗って沖縄まで来ました。藤田さんも、時間がある時にあのルートの旅はおすすめですよ。

藤田  えー、それって5日くらいかかりますよね?

ジョン 7日かかったよ。船からトビウオとかイルカを見ることができるし、夜も朝も太陽がすごいよ。

藤田  苫小牧から沖縄までの航路って、その道のりはすごいな。

ジョン そして、沖縄に着いて、那覇のウィークリーマンションに入りました。どこに住もうかとあちこちでアパートを探して、最初は那覇の小禄だった。飛行場の近くだったね。仕事を引退するためにこっちに来たつもりだったけど、それだと退屈になってしまって。私には引退は合わなかった。それで、沖縄に私が大好きなチーズがなかったの。時間もあったし、チーズもなかったから、じゃあ自分で作ろうかなって思ったのが最初です。

藤田  最初は普通の、市販の牛乳で作ったんですよね?

ジョン そうそう。毎朝、50%オフになる牛乳を買いに行っていたよ。高いミルクを安く手に入れてましたね。

藤田  なるほど、ちょっと賞味期限が近づいているものを敢えて買って──

ジョン 毎日どんどん違うものを作って冷蔵庫がいっぱいになってしまいました。だから、もう一つ冷蔵庫をチーズ用に買いましたよ。それから友達が那覇のバーでチーズナイトしようっていうから、いっぱい持って行ったら、すごい大人気だったんだ。そこで、みんなが欲しい欲しいって言ってくれました。

藤田  いろんなジョンさんにまつわる記事を読んでいて、どうしてチーズを作り始めたんだろうって気になっていたんですけど、たとえばお母さんがチーズを作っていた、とかそういうバックボーンはあったんですか?

ジョン インタビューのときによくされる質問は……
「ジョンさんはどこの大学でチーズ覚えたんですか?」
「お母さんが家族の中で作ってたんですか?」
「いやとんでもない」
「じゃあどうやって作ったんですか?」
「いやインターネットで調べて」
僕は、どうして先生がいないとダメなんだろうって思うんですよ。なんでも先生、先生、先生になるでしょう。なんだってやりたいと思えば自分でできますよ。

藤田  なんかすみません(笑)。じゃあ、ただもう美味しいチーズが食べたいなあ、ってことで、時間もできたし、インターネットで調べながら作ったんですね。本当に一からなんだ。

ジョン そうそう。もちろん、たくさん当たり外れがあったよ。でも、それも含めて自分でやってみるのは一番いい方法だと思うんですよね。だって、本当の意味で身につけることができるから。

藤田  自分で全て考えるということですもんね。

ジョン 自分でやると、どうしてうまくいかないか分かるようになるんです。それと、作ったものを売るためには保健所の免許が必要なんですね。それなら、台所じゃなくてちゃんとした工場を作らないといけない。しかも、生乳も手に入れないとダメで。これがとにかく大変だった。

藤田  そこに至るまでも、大変な道のりだったと思うけど……生乳は、結局どう手に入れたんですか?

ジョン 南城市の親泊さんという人と出会って、やっと見つけられました。彼は酪農家です。しかも、偶然なことに親泊さんは乳牛を育てながら、チーズも作りたいと思っていたんです。彼はチーズの作り方が分からなくて、私は生乳が欲しいけど、どこで手に入るか分からなくて。だから彼に会ってすぐに握手して、「よし始めようか」ってなりました。

おきなわいちばVol.64 小山泰雅撮影

藤田  その出会いで、いきなり全部が噛み合ったんだ。

ジョン ここで作るチーズは、沖縄のものをたくさん試してみました。フーチバーでしょ、ゴーヤー、サクナも。本当に色々試したね。ゴーヤーはね、チーズに入れる時はスライスして乾燥して水分を出す。その水分が苦いんです。だから、水分を出してしまえば苦くない。そうするとゴーヤーの味があまりしないんだよね。でも色は残ります。

藤田  じゃあ、これは色だけなんですね。

ジョン みんな、北海道じゃないとチーズを作れないと思い込んでる。僕から言わせたら本当はそんなことないと思ってるんだ。沖縄の気候は、南イタリアとかシチリア、トルコ、ギリシャと近いから、チーズが美味しい。沖縄の方がチーズを作るのにいいんだよ。

藤田  ああ、そうなの?

ジョン だから最高ですよ。ここはチーズアイランドですね。

藤田  沖縄の湿度というのは、チーズにとってはどうなんですか? 結果的には良かった?

ジョン そうそう。チーズはカビだからね。でも、どんなカビでもいいわけではないんですよね。気をつけないと。衛生は大事。

藤田  だからそういう経緯で工場を建てて、お店も持って。しかも、他のお店にもどんどん卸しているんですよね?

ジョン 最初の頃は小さな工場で、本当に冷蔵庫とかチーズを作るバットとか、テーブルだけの空間で。だんだん狭くなったから工場を大きくして、もともと駐車場だった場所が今は全部工場になった。売るところも、最初はファーマーズマーケットだったよ。それで、友達が沖縄のホテルのシェフにチーズを紹介してくれたんです。そしたら、「このチーズが欲しい、買う」ってなって。

藤田  なるほど。人と人が繋がっていって、自然と拡大していったんですね。

ジョン そうですね。ホテルのシェフ達はお互いよく話をして情報交換するから。

藤田  たしかにそこと出会うと、話がどんどん広がっていきそう。

ジョン そうそう広がる。ホテルは本当にそうやって増えていったな。

藤田  ジョンさんはCliff Beerの(宮城)クリフさん(おきなわいちば presents対談シリーズ VOL.4 に登場)ともご一緒されていますよね?

ジョン そうですね。以前、クリフのビールでチーズを作ったんです。もう売れちゃってないんだけど、とてもおいしい。クリフのところは、「文豪」がうまいんですよ。黒ビール。そうそう、きれいなチーズが作れるんですよ。

藤田  「文豪」で作ったのもあるんだ!

ジョン ビールと一緒に食べたら、もちろんぴったりです。もとは同じだからね。

藤田  クリフさんのビールはリアルエールだから、常温でも美味いんですよね。特に「文豪」はコンセプト的にも、たとえば読書をしながら長い時間かけて飲んでも美味しい、というものだから。チーズに絶対合いそうですよね。ちなみに、僕はジョンさんのチーズ「メロイェロ」が好きでした。

ジョン 「メロイェロ」は人気あるね。あと、あれ食べてない?「焼くやつ」。

藤田  「焼くやつ」、昨日みんなで食べました!

ジョン これもおいしいね。ラジオ沖縄のパーソナリティしている「ひーぷー」さんって知ってます?彼は、このチーズが大好きなんだけど、名前が覚えられなくて、「あれなんだっけ?『焼くやつ』」っていつも言うの。

藤田  その人のそれが、そのままタイトルになったんですね。「焼くやつ」って相当いい名前ですよね、響きがもう美味しそうだし、食べる前から美味いだろうね、と頷いてしまう。それから「琉球エメンタール」も美味しかった。

ジョン 濃いチーズが好き?

藤田  好きですね。今朝は、ジョンさんのヨーグルトとさけるチーズも食べましたよ。

ジョン うちのヨーグルトはね、すっごい人気があるよ。2週間前くらいに東京でイベントがあったんですけど、ヨーグルトは10キロ持って行ったんだけど、1時間で全部売り切れて。

藤田  そりゃそうですよね、だって本当に美味しいもんなあ。これもまたジョンさんのところで販売されている冬瓜シロップをヨーグルトにかけて、パンと一緒に食べたらめちゃくちゃ美味しかったです。

ジョン これが本当のヨーグルトです。私が子どもの頃のヨーグルトはこうだったんです。日本で普通に売られているヨーグルトを食べて、びっくりした。これはヨーグルトじゃないよって。

藤田  そうなんですね。日本で一般的に知られているヨーグルトとは全然違いますよね。

ジョン それからね、「チーズよう」って呼んでいるけど、これはブルーチーズのエキスみたいなもの。すごく濃いよ。沖縄の「豆腐よう」って知ってる?それのチーズ版。パスタソースにしたら最高。多分、日本でウチしか作っていないんじゃないかな。

藤田  ジョンさんが初めて日本に来たときに、まず「うまいチーズがない!」って感じたとおっしゃっていましたが──

ジョン 少なくても50年前はなかったね。寂しかったね。でも時間をかけて少しずつ日本にも入ってきたよ。沖縄は、少し歴史が違っていたら、すごいチーズ文化があったはずですよ。沖縄はチーズを完璧に作れるところだから。でもたまたまなかった。もしあったらどういうチーズが作られてたかなって想像するんです。絶対、フーチバーとかサクナとかゴーヤーとか、そういうものを使うでしょ、きっと。

おきなわいちばVol.64 小山泰雅撮影

藤田  面白いですね。もし沖縄に昔からチーズがあったとしたら、どういうものだったか──

ジョン はい。そして有名なチーズの名前はだいたい地名ですよね。チェダー、カマンベール、ゴルゴンゾーラ、ぜんぶ場所の名前なんですよ。だから「ちゅら南城」、「大里ホワイト」とか、チーズの名前に地名をつけたんだ。

藤田  やー、そうなんですよね。なるほどー、だからなんだ。ジョンさんのチーズの名前って、すごいかっこいいなって思って。集めたくなりますよね。

ジョン あと、ヤギミルクを使ったチーズは「オーマイーゴート」。

藤田  (笑)。オーマイーゴートはかなり強いというか、とにかく濃かったですね。

ジョン あと、「ヒージャーソフト」。ヒージャーはヤギのこと。これはヒージャーが苦手な人でも食べやすいと思います。

藤田  塩の加減なのか、質なのかが絶妙だと感じました。

ジョン この塩はヒマラヤのピンクソルトです。沖縄の塩を使いたいけど、塩気がきつくて、しょっぱすぎる。すごくピュアだけどね。

藤田  うーん、これは話しているだけでお酒が飲みたくなってくるなあ。チーズがあると、違うものも用意したくなるんだよなあ。

ジョン そうですね。チーズのほかにも、おいしい肉もお勧めできたらいいですよね。だから、もっと大きなお店が欲しいんですよ。

藤田  話していて気づくんですけど、チーズはいろんなところに手を伸ばせる可能性がありそうですね。ジョンさんの大きなお店、想像するだけで興奮しますよ。

ジョン いろんなことができるよ。ほんとに。

藤田  チーズを中心に、頭の中で食欲が走っていって、次々とイメージが繋がっていくんですよね。どういう料理にしようか。チーズに合わせて、どういうワインを買おうか、とか発展していく。夕方を目がけて、嗅覚と味覚、胃袋をつかってどうしようかと考えていく時間って本当に豊かだなって思います。
今、お店にはどれくらいの種類のチーズがあるんですか?

ジョン 実際にお店に並べているのは30数種類かな。面白いのでどんどん増えて50種類あったけど工場長からストップがかかりましたね。(笑)

おきなわいちばVol.64 小山泰雅撮影

藤田さんは、料理が好き?もしモッツァレラカードがあればフレッシュなモッツァレラチーズを自分で作ることができます。原材料(カード)はCheese Guyで買うことができます。フレッシュだと最高においしいよ。

藤田  最高じゃない? 最高の話をずっと聞いてるんだけど(笑)。

ジョン ゴートゥーヘブンだね。

(対談後、ジョンさんの好きな場所だという糸数城、それからそば屋やかりゆし市を案内してもらい、チーズの工場の見学もさせていただきました。)

John Davis(ジョン デイビス)

イギリス生まれ。約40年前に日本を訪れ、東京で英語教師をした後、北海道へ移住。その後、暖かな地に住みたいと沖縄へ移住した。日本語が堪能で好奇心旺盛。おいしいチーズが食べたいと、チーズ作りを始めたところ、評判になり、本格的にチーズ作りをスタート。工場とお店をオープンさせた。

The Cheese Shop
沖縄県南城市大里字仲間1155 JAアトール内
090-2051-5188